APIライフサイクル

明確に定義されたAPIライフサイクルが、チームメンバーの共通認識を保ち、エンタープライズ規模でも高品質なAPIの開発を可能にする方法をご紹介します。

マイクロサービスのPostman。イラスト。

APIライフサイクルとは?

APIライフサイクルとは、チームがAPIを設計、開発、デプロイ、そして利用するまでの一連のプロセスです。明確に定義されたライフサイクルに従うチームは、生産性が高く、高品質なAPIをより確実に提供できます。

安定したAPIライフサイクルは、効果的なAPIガバナンス戦略に不可欠な要素であり、段階ごとのポリシーとプロセスの基盤を築くことで、コラボレーションを促進し、組織がAPIポートフォリオの価値を最大限に引き出せるようにします。

APIライフサイクルの図解

APIの提供者と利用者は、それぞれ独立したライフサイクルを持ちつつも、相互に関連しています。ここでは提供者側のライフサイクルに焦点を当て、明確に定義されたAPIライフサイクルがチームのAPIファースト戦略の実現をどう支援するかを解説します。続いて、API提供者のライフサイクルにおける8つのステージを詳細に見ていき、APIライフサイクル管理におけるベストプラクティスを紹介します。最後に、Postman APIプラットフォームが、ライフサイクル全体を通してチームの効果的なコラボレーションを支援する機能をご紹介します。

明確に定義されたAPIライフサイクルは、APIファーストアプローチをどう支えているか?

現在、多くのチームが、社内外のサービスをAPIでつなげることでアプリケーションを構築しています。この「APIファースト」アプローチにより、プライベートAPI、パートナーAPI、パブリックAPIが急速に普及し、組織は新機能を迅速に提供し、ビジネス目標の達成を加速させています。しかしAPIの数が増加・多様化するなかで、それぞれのAPIが高性能で安全かつ利用者のニーズを満たす状態を維持するのは容易ではありません。各ステージにおける責任者、ガバナンスポリシー、ツールを定義したAPIライフサイクルは、APIに関する作業に共通の理解と用語をもたらし、チームの認識を統一します。その結果、エンタープライズ規模でも一貫して高品質なAPIを開発できるようになります。


APIライフサイクル管理のメリットは?

APIファーストアプローチの実践を支援するだけでなく、APIライフサイクル管理には次のような利点があります。

  • 生産性の向上:APIライフサイクル管理とは、APIの設計、開発、デプロイに関する実績あるプロセスを確立することです。これらのプロセスにより、無駄な作業や混乱が減り、コラボレーションが改善され、持続的な生産性向上が期待できます。
  • 可視性の促進: APIライフサイクル管理は、すべてのAPI関連プロジェクトに明確なロードマップを与えるため、リーダーは各APIの進捗を容易に把握できます。また、APIの健全性、パフォーマンス、使用状況を監視するためのモニタリング戦略の基盤としても機能します。
  • 組織の連携:APIライフサイクル管理は、組織内のすべてのAPI関連作業に共通の言語を提供します。これにより、チーム間のコミュニケーションが円滑になり、全員が同じ目標に向かっているという意識が強まり、士気の向上にもつながります。

API提供者ライフサイクルの8つのステージとは?

すべてのAPIは固有の目的や特徴を持つため、ライフサイクルも異なります。しかし、以下の8つのステージは、プロセス、ポリシー、ワークフローを標準化するための有効なモデルとなります。

ステージ1:定義

APIライフサイクルの最初のステージでは、プロダクトマネージャーやその他の関係者が、単一のAPIまたはAPIのグループに対する運用上、ビジネス上、そしてセキュリティ上の要件を定義する必要があります。このプロセスでは、APIの用途に合意し、その後の各ステージを担当するチームメンバーを特定します。さらに、チームが共同作業できる専用のワークスペースと、CIパイプラインと連携したGitHubリポジトリを作成・設定しておくことも推奨されます。これらのステップは、ライフサイクル全体の安定性を高め、各ステージに必要な作業環境とツールの基盤を整える上で重要です。

ステージ2:設計

API設計では、APIがどのように利用者にデータを公開するかについて、意図的な設計判断を行います。これらの判断は「API定義」として文書化され、APIが提供する機能を人間にも機械にも読み取れる形式で記述します。API定義は、OpenAPIやAsyncAPIなどのAPI仕様に準拠します。これらの仕様は、API定義に共通の形式と言語を提供し、APIコントラクト、ドキュメント、モック、テストといった成果物の土台を築きます。

リーダーは、APIのインターフェースや振る舞いを整えるための組織内標準やベストプラクティスを設けることで、この設計段階を標準化することができます。たとえば、すべてのチームにOpenAPI仕様を使用させたり、命名規則や大文字小文字の使い方、句読点のルールなどを定め、それらを自動チェックによって検証できるようにすることが考えられます。

ステージ3:開発

APIが設計された後、開発者はその設計に基づく機能を実装するコードの作成に取りかかります。多くの開発チームは、変更の追跡と安全なバージョン管理のためにGitを使用します。これにより、必要に応じて以前の状態にロールバックすることも可能です。また通常、GitHubやGitLabのリポジトリを使ってソースコードを保存し、コードに関する課題の管理やレビューも行います。開発フローはチームによってさまざまなので、リーダーは自チームの標準的な開発プロセスを明確に定義し、標準化を図ることが重要です。

ステージ4:テスト

APIテストは、APIライフサイクルの「開発」「セキュリティ」「デプロイ」の各ステージで行われ、APIが期待通りに動作していることを開発者やQAチームが確認するための工程です。テストは手動でも実行可能ですが、複数の地域から自動的に実行したり、CI/CDパイプライン内に組み込んで自動化することもできます。早い段階から何度も確認することで、問題が定着してしまったり本番環境に出てしまったりする前に、課題を見つけて直すことができます。

APIテストにはさまざまな種類があり、それぞれ特定の目的を持っています。たとえば、コントラクトテストでは、設計段階で合意された内容から逸脱していないかを検証します。一方、パフォーマンステストでは、APIが適切な時間内にレスポンスを返せるかを確認します。

ステージ5:セキュリティ

APIライフサイクルの「セキュリティ」ステージでは、APIに存在し得る一般的なセキュリティ脆弱性を検出し、アプリケーション全体のセキュリティ態勢を強化します。たとえば、APIの認証ロジックが正当な利用者のみのアクセスを許可しているかを確認することが不可欠です。こうしたセキュリティチェックは、手動で行うことも、CI/CDパイプライン内で自動的に実行することもできます。これにより、組織が保有するすべてのAPIが同じセキュリティ基準を満たすように整備されます。

ステージ6:デプロイ

APIライフサイクルにおける「デプロイ」ステージは、開発環境、ステージング環境、本番環境へのAPIの公開を指します。多くのチームでは、CI/CDパイプラインとAPIゲートウェイを活用してこのプロセスを標準化しています。これにより、すべての変更に対して適切なテストとセキュリティ対策が施されてから利用者に提供されるようになります。こうした一貫性のあるプロセスは、特に週に複数回コードをリリースするアジャイルチームにとって、予測可能性の確保という点で重要です。

ステージ7:監視

「監視」ステージでは、本番環境におけるAPIのテレメトリデータ(計測データ)を収集・可視化し、異常が発生した際には即座にアラートを出す仕組みを構築します。この段階では、SRE(サイト信頼性エンジニア)やDevOpsエンジニアが、APIのパフォーマンスやセキュリティ上の問題を自動で検出できるようにモニタリングを設定します。また、APM(アプリケーションパフォーマンス管理)ツールを使用し、APIの動作を他のシステムコンポーネントと関連付けて分析できるようにします。APIのオブザーバビリティ(可観測性)は、エラー、遅延、セキュリティの脆弱性を早期に明らかにし、関連するサービス、パートナー、顧客への悪影響を防ぐために不可欠です。

ステージ8:配布

「配布」ステージでは、APIの発見性を高め、必要な利用者に見つけてもらいやすくするための活動を行います。このステージで中心的な役割を果たすのがAPIカタログです。パブリックAPIカタログは、提供者が外部の利用者にAPIを届け、サポートするのに役立ちます。一方、プライベートAPIカタログは、社内チーム同士のAPIの発見と利用を容易にします。すべてのAPIには、詳細な説明や関連タグを含めるべきです。これにより、カタログ内の検索エンジンによってAPIが正しくインデックスされ、見つけやすくなります。

配布はAPIライフサイクルの最終ステージではありますが、それで終わりというわけではありません。API開発は何度も繰り返す作業であり、利用者からのフィードバックに応えたり新機能を追加したりするたびに、常にAPIライフサイクルの最初のステージに立ち返ることになります。


APIライフサイクル管理のベストプラクティスとは何ですか?

APIライフサイクル管理とは、APIのライフサイクルのすべてのステージを統括し、各ステージができる限りスムーズに実行されていることを確認するプロセスです。これはビジネスに直接影響を与える可能性のある複雑な取り組みですが、次のようなベストプラクティスを押さえることで、チームの成功につながります。

各ステージに対して明確で安定した具体的な定義を確立する

上記で述べたように、各APIはその種類、利用目的、成熟度に応じて固有のライフサイクルに従います。そのため、リーダーはAPIの特定の要件に合わせて、各ステージを明確に定義する必要があります。定義が曖昧であれば、混乱や誤解を招き、高品質なAPIを効率的に開発するという本来の目的が損なわれかねません。ライフサイクル定義に変更を加える場合は、その影響を慎重に検討し、本当に必要なときだけにとどめるべきです。

ライフサイクルの各ステージと関連するポリシーとプロセスを文書化する

APIライフサイクルを定義するだけでは不十分です。その定義が関係者にとって常に参照可能であることが重要です。したがって、リーダーは各ステージにおける担当者、プロセス、ツール、ポリシーを中央集約された場所に明確に文書化する必要があります。また、ライフサイクルを図式化し、プレゼンテーション資料、ブログ記事、ワークショップなどで活用できるようにすることも有効です。こうした情報をオープンにしておくことで、関係者の認識を揃え、新しく参加したメンバーの迅速なオンボーディングにもつながります。

統合APIプラットフォームを活用する

APIライフサイクルの運用には、開発者、テスター、アーキテクト、プロダクトマネージャー、ビジネスストラテジストなど、さまざまなステークホルダーの連携が不可欠です。これらの関係者が足並みをそろえるには、お互いの作業内容や背景に可視性を持たせる必要があります。そのため、組織は統合APIプラットフォームを活用し、ライフサイクル全体の基盤を一元化することが推奨されます。これにより、部門間のサイロを解消し、各ステークホルダーが自らの業務の意義を把握し、他の関係者とのつながりを理解しながら業務を遂行できる環境を整えることができます。

APIライフサイクル管理のこれから

現在、ますます多くの組織が、プライベートAPI、パートナーAPI、パブリックAPIを活用して技術スタックの近代化を進め、新機能を提供し、競争力を維持しています。これに伴い、APIライフサイクル管理にも積極的な投資が行われており、拡大するAPIポートフォリオの価値を最大化し、デジタル戦略の成功を支える鍵となっています。APIライフサイクル管理は今後も進化を続け、次のようなトレンドが顕在化していくと考えられます。

  • APIプラットフォーム採用拡大:APIプラットフォームとは、APIの構築、管理、公開、利用を効率的に行うための統合ツールとプロセスを備えたソフトウェアシステムです。こうしたプラットフォームは、プライベートAPI、パートナーAPI、パブリックAPIの可能性を最大限に引き出し、各組織が自社に最適なツール、プロトコル、言語、ランタイムを柔軟に選択しながらAPIを活用できるようにします。結果として、APIライフサイクル管理のあり方そのものを再定義する役割を果たすでしょう。
  • APIスプロールの抑制:マイクロサービスベースのアーキテクチャへの移行に伴い、APIの数が急増(いわゆるAPIスプロール)するケースが増えています。マイクロサービスは反復的な開発やスケーラビリティを促進する一方で、管理の複雑化という課題も抱えています。しかし、APIライフサイクル管理への理解と投資が進むことで、組織はAPIの整理と可視化を進め、APIスプロールの問題を効果的に抑制できるようになると期待されています。
  • 自動化の進展:APIライフサイクルにおける自動化の活用は今後さらに拡大し、ドキュメント作成、テスト、デプロイといったプロセスの効率化を加速させるでしょう。特に、APIテストの自動化は、開発サイクルの中で継続的に作業内容を検証できるようにするため、今後さらに多くのチームのワークフローに組み込まれていくでしょう。APIテストを自動化することで、迅速な開発を行いながらも、品質の確認を継続的に行うことが可能になります。

PostmanはチームのAPIライフサイクル管理をどのようにサポートするのでしょうか?

Postman APIプラットフォームは、フルライフサイクルAPI管理の分野において、Gartner®より2年連続で「ビジョナリー」として評価されています。このプラットフォームには、チームがAPIライフサイクルのあらゆる段階で効率的に連携しながら、品質、パフォーマンス、セキュリティを重視した開発を進めるための強力な機能が備わっています。Postmanでできることは次のとおりです。

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APIアイコンのまわりで踊っているPostmanauts。イラスト。
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